解決志向アプローチで幸せをつかみ取る~天王寺璃奈のケース~
天王寺璃奈は解決志向アプローチの結果りなちゃんボードの着想に至った。
現代社会はストレス社会とも呼ばれる。現代に生きる多くの人々が日々ストレスを感じており、ストレスを抱え込みすぎた結果心身障害・神経障害を引き起こすケースもある。天王寺璃奈もそのようなストレス障害に悩まされる現代人の一人と言える。
彼女のケースはいささか特殊だ。一言でいうと表情が出せない。スクスタにおいて、昔は問題なく表情を出せていたが、だんだんどのような表情をしたら良いのかが分からなくなってきたと語られており、またその原因が家庭環境の変化によるものであることもうかがえる。したがって、私は璃奈の症状が家庭環境が原因のストレスによるものだとみなしている。TVアニメにおいては「小さいころから表情を出すのが苦手」と語られおり、先天的なものであるとも考えられるが、TVアニメのキャラクター設定がスクスタをベースにしていることや、家のことはスマホ一つでできるようにしていること、宮下愛の「普段この時間はりなりー1人だって聞いてたから」というセリフ等、璃奈の家庭環境がうかがえる描写が見られることからも、家庭環境に原因の一端があると考えてよいだろう。
彼女の抱える問題は3つに分けられる。
- 表情が出せない
- 上記の症状を意識した途端、「表情が出せない→誤解される」と思い込んでしまう(強迫観念)
- 失敗することを自分のせいにしてしまう(うつ病の症状)
1.については先に述べた通りである。2.の強迫観念については、過去にこの症状が原因で失敗し続けてきたという経験があることからも非常に強固なものとなっている。3.について、自分を責めることはうつ病の症状の1種らしいが、私はこの分野は素人なので見当違いかもしれないし、本記事の主題ではないことから、うつ病の症状かどうかについては深く考えない。*1
TVアニメ6話において、スクールアイドル活動を通してこれまでの自分を変えようと璃奈は奮闘する。日々の練習によってパフォーマンスが段々できるようになり、自信がついてきた璃奈。しかし、クラスメイトをライブに誘おうと声をかけようとしたところで2.に述べた症状が発症し、部屋に閉じこもり、外界との繋がりをシャットアウトしてしまった。
璃奈にとっての問題とは、表情が出せないこと以上に、それを意識することで生まれる強迫観念とストレスによって正常なコミュニケーションがとれないことである。それも、心理療法や薬物療法が必要と思われるレベルだ。しかし、その後部屋に押しかけた同好会メンバーとの会話を経て自信を取り戻し、ライブを成功へと導くことができた。
この短い時間になぜ璃奈は自信をつけることができたのか。その理由は、この会話が解決志向アプローチに基づいていることにある。
解決志向アプローチ
解決志向アプローチ(Solution Focused Approach; SFA)とは、1970年代にアメリカにあるBrief Family Therapy CenterのSteve de ShazerとInsoo Kim Bergらによって開発された心理療法である。解決志向短期療法(Solution Focused Brief Therapy; SFBT)とも呼ばれており、短期的に大きな効果が得られるとされている。
従来の心理療法では、患者が抱える問題の原因を理解することで解決方法を探る。しかし、「できないこと」を追求する方法では、患者が「自分が責められている」と感じてしまい逆に心が折れてしまうこともある。さらに、原因の探求だけで数年かかる場合もあるし、原因を理解したけど解決できないなんていうオチもある。璃奈の場合、家庭環境を変えることが解決手段の1つと考えられるが、そうこうしている間に高校生活は終わってしまうだろう。ライブは翌日なのだ。悠長な手段はとっていられない。
解決志向アプローチが従来の心理療法と異なる点は、目の前の問題の解決策のみに注目することである。カウンセリングにおいては、「何がうまくいっているのか」「未来のために何ができるのか」という会話を通してソリューションイメージ(解決像)を構築することで、患者の負担を軽減し、自信を持たせやすくなる。解決志向アプローチの大まかな手順は以下の通りだ。
SFAでは、まず、クライエントの問題を傾聴しながら、コンプリメント(労う、認める)を十分に行い、例外(クライエントの問題が起こっていない状態)や解決の手がかり(リソース)をクライエント自身が探索できるように、様々な質問を行う。それから、ウェルフォームドゴール(よく形成されたゴール)について話し合う。
ソリューションフォーカストアプローチ - Wikipedia
これを踏まえてTVアニメ6話を振り返ってみよう。
同好会メンバーはまず璃奈の話を十分に聴くことから始めた。
話を聴き終わった後、璃奈の良い部分を挙げていき、「できないことはできないままで良い」と現在の璃奈を認めて、一緒に考えようと手を差し伸べた(コンプリメント)。
ここでクエスチョン。今何がうまくいっているのだろう。今まさに、璃奈は同好会メンバーと本音で話をすることができている。では問題が起こっていない現在はどのような状態なのか。段ボールに閉じこもって顔を隠している。
「顔を隠せばコミュニケーションをとることができる」、これこそが璃奈にとっての例外だ。この発見から「璃奈ちゃんボード」の着想に至り、ステージに立ってライブをしたり、友達を作ることができるようになった。
璃奈にとってのウェルフォームドゴールとは、「友達を作ること」だ。そのためには、「表情が出せない」という根本的な問題を解決する必要はなかった。璃奈ちゃんボードを使うことで想いを伝えて人と繋がることができるのならば、この方法で少しずつ進んでいけば良い。今はまだ、それ以上を望む必要はない。真に大切なのは本人が幸せであることなのだから。
おわりに
解決志向アプローチにおける「例外」というのは、過去の記事で述べた「ブライトスポット」と実質同じだ。
ブライトスポットに注目することで変化を起こしやすくなることはこの記事で述べている。璃奈のように本来心理療法を必要とするような症状を持っていなくても、日常生活や仕事において解決すべき問題を抱えている場合、解決志向アプローチの考え方が役に立つかもしれない。まずは「うまくいっていること」に目を向けてみよう。
参考文献
前回のスクスタ記事でも取り上げたが、今回の解決志向アプローチについてもこの本で知った 。虹ヶ咲コンテンツを追う上で個人的に重要度の高い書籍になりそうだ。
*1:ちなみに璃奈の症状に近いものを探してみたところ、失感症状(アレキサイミア)というものを見つけた。ただし、表情というよりは言語化の問題のようなので厳密には異なる症状だろうが。
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-04-006.html